ニール・アッシャー “Strood”

アッシャーはアクションSFの人というイメージだったが、これは懐かしい感じのワンアイディアでオチをつけた小話。人類よりだいぶ進んだ技術を持つ異星人たちがやってきて、不治だった病も治してくれるようになった。ガンに冒された主人公も異星人に助けを…

パオロ・バチガルピ “The Gambler”

ラオスで起こった政変後、少年オンは両親に逃がされて母国を後にした。情報が統制され、故郷は今も内部の情報がほとんど観測できないブラックホールと化している。 成長したオンは、米国のニュース会社の記者になった。しかし、ページビュー数や世間の反応が…

チャールズ・ストロス “Rougue Farm”

バイオエンジニアリングが大きく進歩した未来。ジョーとマディの夫婦が暮らす牧場の近くに“ファーム”がやってきた。戦車くらいのサイズで皮膚の質感は黒皮のよう、3本の眼柄と9本の足があり、イーストとガソリンのにおいを放つ。そんなファームの正体は、…

ヴァンダナ・シン “Infinities”

SF色は薄いが、重く濃密で読みごたえがある。数学にとりつかれた男の一生。ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』に、地域の宗教対立問題を加えたような話である。 アブドゥル・カリムはイスラム教徒とヒンドゥー教徒が混在する地域で暮らしている。町の学校…

21世紀の英語圏SFについて・はじめに

本邦で『00年代海外SF傑作選』が出ないまま、2017年になってしまった。現在、英語圏のSFの動向を知るチャンスはあまりに少ない。(しかし、その状況に文句を言うのも不毛な行為である。商業出版は売り上げありきだ) というわけで、淡々と読んだ英語短…

Understories (2012) by Tim Horvath

Understories by Tim Horvath (2012, Bellevue Literary Press) 著者の初の短篇集。創作指導の講師、カウンセラーとして務める傍ら、年2回刊行の文芸&フォトZine Camera Obscura Journalのエディターとしても活動する小説家だ。Conjunctions誌やDIAGRAM誌…

The Universe in Miniature in Miniature (2010) by Patrick Somerville

The Universe in Miniature in Miniature by Patrick Somerville (2010, Featherproof Books) 新鋭作家の集うfeatherproof Booksより刊行された短篇集。限定版はモビールになる表紙つき! (from http://www.featherproof.com/Mambo/index.php?option=com_co…

Tunneling to the Center of the Earth (2009) by Kevin Wilson

Tunneling to the Center of the Earth by Kevin Wilson(2009, Harper Perennial) 2011年に初の長篇THE FAMILY FANGが大当たりし、さっそく映画化の話も飛び出した作家Kevin Wilsonは、この短篇集でシャーリイ・ジャクスン賞*1と米国図書館協会のアレック…

“There is No Year” by Blake Butler(その2・Twitterまとめ)

下記は2012年4月15日・16日につぶやいたもののまとめ。 アメリカ文学の暗黒の新星Blake Butlerの長編There Is No Yearをけさ読み終わる。三人家族が新しい館にひっこしてきたら奇妙なことが頻発するという話で、ホラーっぽいが筋も解決の手がかりもなにもな…

実験的・館もの怪奇譚 - There is No Year (2011) by Blake Butler

There is No Year (2011) by Blake Butler (Harper Perennial, 2011) ちょうど二年前(ギャー)にもBlake Butlerの短編集について書いたが(→http://d.hatena.ne.jp/granit/20100419)今回は約一年前(ギャー)に刊行された長編について。長編といっても、ご…

女には向かない職業? - Unclean Jobs for Women and Girls (2010) by Alissa Nutting

Unclean Jobs for Women and Girls by Alissa Nutting (Starcherone Books, 2010) 実験小説・奇想小説系のレーベルStarcherone Booksから発売された、新人アリッサ・ナッティングの第一短篇集。 なにかと過剰で、ときに悪趣味な笑いが魅力のバカ(エロ)(奇…

異貌の神々に取り巻かれた家族小説集 - Objects of Worship (2009) by Claud Lalumiere

Objects of Worship by Claude Lalumiere (ChiZine Publications 2009) 創立以来、ラディカルでエッジがきいた作品を次々輩出しているカナダのChiZine Publicationsから出版された一冊で、Lalumiereの処女短編集にあたる。以降はだいぶネタバレありなのでご…

暗い短篇実験室 - How They Were Found (2010) by Matt Bell

How They Were Found by Matt Bell (2010, Keyhole Press) 「エドガー・アラン・ポオ的なるもの」はときに文学という名目で、ときにエンターテイメント(ホラーだとかスリラーだとか)と呼ばれ、ともかくも何らかの形で永らえている。ふだんはじっと水面下に…

Yarn (2011) by Jon Armstrong(2)解説

ディック賞について 今年のフィリップ・K・ディック賞の候補作のひとつである。残念ながら落選。 トマス・ディッシュらが設立に尽力したディック賞は、ペーパーバックで刊行されたフィクション――日本でいえば「文庫書き下ろし」に相当するポジション?――から…

ファイバーパンク&ファッションパンク - Yarn (2011) by Jon Armstrong(1)紹介

才能と富に満ち溢れたファッション・デザイナー、テーン・セダーはある日仕事場で、粗布を引っかぶった人間の訪問を受ける。彼女の声は聞きたがえようもなく、遠い昔に彼が愛した女性ヴェイダのものだった。苦痛を終わらせるために《Xi》の服を作ってくれと…

Boxer, Beetle (2010) by Ned Beauman(2)解題篇

本書には、一般的に言ってマスキュリンなモチーフばかり集められている。ボクサー、カブトムシ、ファシズム、ナチスドイツ。力強さ、すなわち格好よさという価値観が透徹しているわけだ。そしてManlinessが極まった結果、ホモセクシュアルとホモソーシャルが…

Boxer, Beetle (2010) by Ned Beauman(1)梗概篇

英国のエディター/ライター、Ned Beauman(ネッド・ボーマン)はロンドン在住の1985年生まれ。ガーディアン紙でアメコミや日本の漫画についてのコラムを書き、Dazed&Confusedではインタビュアーとして活動している。ケンブリッジ大学在学中は哲学を専攻して…

The Black Minutes (2010) by Martin Solares

いよいよ内容の紹介に移ろう。 巻頭には、親切なことに登場人物一覧表がついている。ただし人数は50を軽く超える。おまけに作中ではひとりのキャラクターが名前・あだ名・名字のいずれかで呼称されるため、しばらく読むのを中断していると、その組み合わせを…

復活宣言

お前のブログは冬季限定ラミーチョコレートかなんかか、というお叱りを受けそうだ。じつに半年にわたってここを放置していた。どこかのどなたかに「更新停止」というブックマークを貼られてすらいた。 最近は仕事が忙しく、思うように小説も読めないが、これ…

メキシコから来た異色クライム・フィクション - The Black Minutes (2010) by Martin Solares(1)

舞台はメキシコの中規模都市である。ジャーナリスト殺人事件から幕を開ける、息もつかせぬ、驚嘆すべき処女長篇だ。主人公の捜査官、通称エル・マセトンは街が抱える暗い秘密へ急速に引きずりこまれていく。秘密、それは過去の惨劇。未解決に終わった連続少…

タイポグラフィー+ファンタジイ- Light Boxes (2009) by Shane Jones

“Light Boxes”(Penguin Books, 2010*1) by Shane Jones シェーン・ジョーンズは1980年生まれのアメリカ人。以前紹介したBlake Butlerと関わりがある作家で、巻末の謝辞にもバトラーの名前を挙げている。もともと小出版社で600部刷っただけの処女長篇が、ス…

露文インタビュー集“Contemporary Russian Fiction: A Short List”(2008)

フィンランドを拠点に活動するスウェーデン語翻訳者・ジャーナリスト・北欧のロシア文学出版人である、Kristina Rotkirchが現代ロシア文学の大御所たちにインタビューしたのを英語でまとめた本。ストックホルム大学などから後援を受けている。 登場するのは…

とぼけた笑いと苦さ-Psychological Methods To Sell Should Be Destroyed (2008) by Robert Freeman Wexler

“Psychological Methods To Sell Should Be Destroyed” (Spilt milk press, 2008) by Robert Freeman Wexler とぼけた味わいの幻想文学集。本書はチャップブック――てのひら大のパンフレットのような同人誌だ。 著者ロバート・フリーマン・ウェクスラーの小説…

ニュー・ウェーブ暗黒メルヘン・スペースオペラ-Open Your Eyes (2009) by Paul Jessup

“Open Your Eyes” (Apex Publications) by Paul Jessup ポール・ジェサップはあまり自身の情報を明かしていない。Facebookのプロフィールによればオハイオ出身、ペンシルヴァニア在住。おそらくは30代後半から40代前半くらい。好きな映画は『レザボア・ドッ…

追記(2010/12)

『新潮』12月号で、都甲幸治氏が連載「生き延びるためのアメリカ文学」で「夢の本、夢の都市――ミハル・アイヴァス『もう一つの街』」と題して取り上げていた。(びっくりした。まさか米文学コーナーで本書の評を見ることになるとは) 3段×2ページのうち、…

追記(2013/2/11)

もうひとつの街作者: ミハル・アイヴァス,阿部賢一出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2013/02/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (25件) を見る 河出書房新社から『もうひとつの街』として、まもなく丸々一冊邦訳が出るようだ。めでたや!

幻想特盛チェコ文学-The Other City (2009) by Michal Ajvaz

“The Other City” (Dalkey Archive Press, 2009) by Michal Ajvaz ウィリアム・L・クロフォード賞にノミネートされた、チェコの幻想小説の英訳である。ごく短い22の章から成る長篇だ。 著者Ajvazは1949年、チェコのプラハ生まれ。チェコ語・チェコ文学を専…

“Last Days”余談

序文として解説を書いているのはピーター・ストラウブ。自身の小説創作講座の生徒に、好きな小説家を答えさせた時にジョージ・ソーンダーズ*1やケン・カルファス*2に混じってこの作家の名前が出てきたのが、イーヴンソン作品との出会いであるらしい。解説は…

圧倒的不条理と暴力-Last Days (2009) by Brian Evenson

Last Days (Underland Press, 2009) by Brian Evenson ☆シャーリイ・ジャクスン賞長篇部門ノミネート、米国図書館協会レファレンス・利用者サービス部会の選ぶ2009年ベスト・ホラー ブライアン・イーヴンソンは1966年生まれの作家。いわゆる文学とジャンル・…

“Scorch Atlas”余談

一応Atlas(地図)の話で始まり、Atlas(地球)の話で終えて統一をとっている。掲載媒体は見事にバラバラ、どれもマイナーだ。変に実験小説に傾倒せず、幻想性の強いものを書き続けてくれればいいと思う。ささやかなユーモア感覚も失って欲しくない。本書の…