“Last Days”余談

 序文として解説を書いているのはピーター・ストラウブ。自身の小説創作講座の生徒に、好きな小説家を答えさせた時にジョージ・ソーンダーズ*1やケン・カルファス*2に混じってこの作家の名前が出てきたのが、イーヴンソン作品との出会いであるらしい。解説は精密な内容読解をふくむ親切設計。正直、最初は設定の把握にとまどうので解説にはかなり助けられた。

 ところでイーヴンソンは邦訳がある。野生時代』55号に掲載された、ブライアン・イーヴンソン「父、まばたきもせず」(訳・岸本佐知子)がそれである。この号の特集が『30代女子のための「エロ」』だったばかりにドン引きして読まなかった、08年の自分を責めたい。残りの《居心地の悪い部屋》シリーズは概ね読んでいるだけに後悔もひとしお。
 追記→『モンキービジネス』Vol.6箱号に「見えない箱」が掲載(訳・柴田元幸)ブライアン・エヴンソン名義。さらに追記→『PAPER SKY』にも柴田訳の掲載あり。

 イーヴンソンは現在、ブラウン大学の創作講座や雑誌Conjuctionsの編集に携わっているらしい。著作の内容のせいでかつて所属していたモルモン教会から放逐されたり、映画『エイリアン』のスピンオフ小説やゲーム『Halo』の世界観を利用したアンソロジーに参加していたりとなかなか興味深い経歴の持ち主だ。フランス語小説の翻訳もやっていて、それがまたピンチョンやダニエレブスキーの仏語訳をした人が書いた中篇小説だったりするのでまったく油断がならない。

*1:去年、もっと早く手を出していればよかったと悔いた作家。

*2:柴田元幸訳「見えないショッピングモール」