読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

露文インタビュー集“Contemporary Russian Fiction: A Short List”(2008)

奇想ではない

 フィンランドを拠点に活動するスウェーデン語翻訳者・ジャーナリスト・北欧のロシア文学出版人である、Kristina Rotkirchが現代ロシア文学の大御所たちにインタビューしたのを英語でまとめた本。ストックホルム大学などから後援を受けている。
 登場するのはボリス・アクーニン、エヴゲニー・グリシュコヴェツ、エドワルド・リモノフ、ユリイ・マムレエフ、ヴィクトル・ペレーヴィン、リュドミラ・ペトルシェフスカヤ、ニナ・サドゥール、ミハイル・シーシキン、ウラジーミル・ソローキン、タチアナ・トルスタヤ、リュドミラ・ウリツカヤだ*1。翻訳がない人がいる気が。なにせ人名表記の基本も知らないので、こう書くほうがいいよという名前があったら教えていただきたい。

Contemporary Russian Fiction: A Short List

Contemporary Russian Fiction: A Short List

 今月は露文が熱い。吉祥寺のOLD/NEWSELECTBOOKSHOP「百年」では、今週末ソローキンのイベントがある。「奇怪・奇天烈・痛快な小説『青脂』を手がかりに、ソローキンの仕事を捉えるとともに、10年代に突入した現在、彼が、ロシア文学が、そして世界文学がどこに向っているのか探る」らしい。自分が書いた『青脂』関連のエントリはこちら
 そして群像社からは久々にペレーヴィンが出版される予定とか。『宇宙飛行士 オモン・ラー』は「月にあこがれて宇宙飛行士になったソ連の若者オモンに下された命令は帰ることのできない月への特攻飛行。宇宙開発はただの幻想? 自転車で行くスペース・ファンタジー」らしい。オーストラリアで06年に演劇化されたこともあるという。中篇にちかい長篇で、本作からペレーヴィンの名が知られるようになってきたそう。

 さて「予習」の名目でこの機会に本書を入手した。そういう勢いがないと小説以外の本なんぞ読まない。
 200ページに満たない薄い本で、内容もあっさり気味。各1ページほど、各作家の生い立ちや代表作について割かれているので、私のような素人が入門書としてかじるにはいいかもしれない。すでによく知っている人にとっては軽すぎて話にならないに違いない。正直、学部生のレポートにも使えるかあやしいレベル。失礼ながらイマイチな質問が多いのだ。それにしてもアクーニンやペレーヴィンは明らかに質問者をおちょくった回答をしているような。ロシア語をやっている人はもっといい文献にあたれると思うので、本書を勧める対象は全然思いつかない。
 というわけでアクーニン、ペレーヴィン、ソローキンの3人についてのみ、気になったところを紹介する。

  • ボリス・アクーニン

 ひどくシニカルな受け答え。98年に出した『堕ちた天使 アザゼル』(2001, 作品社)は「まったく売れなかった」そうで、現にAmazon.co.jpの日本語による評価もさんざんである。(ところが本作、なんと07年からアメリカで映画化が進んでいてなんと現在も進行中。しかも主演はミラ・ジョヴォヴィッチだ。知らなかった) 幸いにも5作目以降から評論家の目に止まるようにもなり「一般読者の人気と、私の内面にある執筆欲求が幸運にも一致して」ブレイクする。
 もともとは学者・翻訳者で、井上靖三島由紀夫安部公房T・コラゲッサン・ボイルらをロシア語訳していることで有名だ。2000年代前半(〜2005年)に『ロシア語の現代日本文学アンソロジー・シリーズ』を沼野充義とともに監修してもいる。私が最初にアクーニンの名を聞いたのはこの企画だった。
 知的な人間が書くエンターテイメントという作風で、実際ジャンル名をタイトルにつけて何冊もの小説を書いている。邦訳の後書きにも解説があったはずだが、Жанры(ジャンル)シリーズはタイトル通りの小説を書く試みで『児童小説』(時間旅行冒険ものジュヴナイルSF)、『スパイ小説』、『SF小説』(ソビエト末期を舞台にした超能力もの)、『クエスト』(2部の別々の小説に分かれた「ゲーム小説」。読者自身が読みすすめることで謎を解明するスパイ/冒険/SFもの)
 そして近年はじまったСмерть на брудершафтプロジェクトも同種の試み。こちらはよくあるテーマをなぞった、全10の中篇から成る予定で年に2回発売され、現在までに6篇が刊行済み。第一次大戦期のロシア対ドイツを扱ったシリーズである。既刊分はそれぞれコメディ、メロドラマ、航空機戦アドベンチャーデカダン派、神秘主義*2、戦争小説だという。なんてこったw

リヴァイアサン号殺人事件―ファンドーリンの捜査ファイル

リヴァイアサン号殺人事件―ファンドーリンの捜査ファイル

 氏の面白かった回答いくつか。
Q:個人的な楽しみとして、どんな本を読んでいますか?
A:フィクションは読んでいない。ふだんは回想録、日記、歴史の本、バイオグラフィーなどを読む。

Q:自作の映画化についてどう思いますか。
A:よかったね、と思う。映画化は本を買ってくれる読者の獲得に有効だから。
Q:……それだけですか?
A:だって映画化の価値なんて、それが最大にして唯一の理由じゃないか。ほかにどんなものがあるというんだね?

Q:あなたはサムライですか?
A:いや。なにもマスターしちゃいないし、儒教を信奉してもいないからね。

 私の大好きなペレーヴィンは言葉少なに回答するので、彼のページだけインタビュアーの空回り気味の長文質問のほうが大半を占めている。しかも明らかに真面目に答えていない。

Q:ご尊父は空軍にいたのですよね? あなた自身も所属していたことがあった。そのあたりの体験は執筆に影響していますか?
A:父親ソ連防空軍に所属していたんだ。ПВО(PVO)というやつさ。だから私の名前もPVO――Pelevin, Victor Olegovichなんだよね*3。飛行機が好きで、よく学習帳に絵を描いていた。けど、私自身が空軍にいたことはないよ。MiG戦闘機の電気関係をやっていただけだ。研究所で学んでいたんだ。

Q:『恐怖の兜』は仏教哲学とネットのチャットルームがまとめて要素になっていますね。どのように(How)ネットとブッダを結びつけたのですか?
A:自分の脳内で。*4
Q:仏教とは、いつ、どのように出会いましたか?
A:ベナレスで、二千年くらい前のことだったかな。細かいことはもう覚えていないけど*5

Q:好きなSF小説は?
A:イワン・エフレーモフ『アンドロメダ星雲』

  • ウラジーミル・ソローキン

 待て次号。意外にも(?)一番きまじめに熱心に答えていた。


“Contemporary Russian Fiction: A Short List” (Glas Publishers, 2008) by Kristina Rotkirch & Anna Ljunggren

*1:11人いる!

*2:ラスプーチン風の怪人が登場。

*3:ネタなんじゃなかろうか。

*4:とんち問答みたいになってる。

*5:!w