女には向かない職業? - Unclean Jobs for Women and Girls (2010) by Alissa Nutting

 Unclean Jobs for Women and Girls by Alissa Nutting (Starcherone Books, 2010)
 実験小説・奇想小説系のレーベルStarcherone Booksから発売された、新人アリッサ・ナッティングの第一短篇集。
 なにかと過剰で、ときに悪趣味な笑いが魅力のバカ(エロ)(奇想)短篇ぞろい。すべて女性の一人称で語られる。各話のタイトルがそれぞれ職業になっている。もっとも職業といえるか怪しいものばかりだが――。
 オチまで割っているのでご注意を。おすすめの作品には★をつけてみた。

  • Dinner

 一発目からこれですよ。職業:晩餐。なぜかハーブとニンニクを口につめこまれて、蒸し煮にされている数人の男(エルビスのそっくりさん、狂った老人、悪漢など)と語り手の女。どうやらこれから食われるらしい。
 最期の直前に人生を回顧し、いまを精一杯生きるという「いい話っぽい」ところと、妙なシチュエーションのギャップが大きくておかしい。

  • Model's Assistant

 北欧系らしき美しいモデルと知り合い、彼女に呼び出されては頻繁にパーティーに同伴するようになった主人公。
 酒好きで、気まぐれで、勝手気ままに暮らすモデルに心奪われた語り手は、アシスタント(マネージャー)を自称して彼女の世話を焼いたり、周りにたかる人間をあしらったりするようになる。
 レズビアニズムとは言えないような、そもそも恋愛ではなさそうな――語り手の想いは、しいていうなら子供時代にありがちな親友への執着と独占欲に近いのだろうか。モデルへの思いに振り回される、ままならなさが共感を誘う。

  • Porn Star

 ケーブルテレビのアダルトチャンネルで放映されるリアリティショーの撮影のため、お相手候補たちとシャトルで月に打ち上げられ、そこで行為の撮影に及ぶポルノ女優の話。しかしどんな演技をしようとも、この語り手は常にどこか冷静さを保ち、自身を客観視しているようなところがある。したがって、本書の中ではむしろエロさ最下層。

  • Zookeeper

 わずか2ページの掌編。飼育員がパンダを盗んで家に持ち帰る。次の日彼女がパンダを隠した自宅に帰ってくると、ちょうど警察が突入するところだった。

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 警察がルウルウを運び出すのが見えた。彼女は、ジャイアントパンダのひとみで私を見た。
 「かあさん」と言った。
 パンダがしゃべれるなんて知らなかった。
 (中略)
 毎月、私は動物園へ筆記体でつづった手紙を送り、どうか一房ルウルウの毛束をもらえないものかと頼んでみる。まあ送ってくれることはないだろう。
 なぜあんなことをしたのかと訊かれたときはこう答えている。「あの子、やわらかかったわ」(P.42)

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 なぜ仔パンダがしゃべったのかという回答は用意されていないが、語り手の孤独をほのかにうかがえるところがいい。

  • Bandleader's Girlfriend

 たぶん最長。主人公は人気ロックバンドのフロントマン、CTと付き合っている。バンドは自然派ヒッピーとゴシックロックが混ざったようなノリで、CTと主人公は数々の「お騒がせ」をマスコミに取り上げられていた。
 なおCTは「太陽光に心酔を捧げているからつけた名前で、Copper Tone(日に焼けた赤銅色)の略」だそうだ。アホかっ。
 物語は、たびたび小言の電話をかけてくる一回り以上年が離れた姉との関係を中心とする。姉はまじめで保守的。母親がわりをつとめあげて主人公を育てくれた人だ。
 主人公たちカップルはThe Worm EternalやLovewormといった存在を信奉していて、なにかにつけ「転生」とか「合一」とか言い出すタイプ。姉にクローディア(出生時の本名)と呼びかけられた語り手は「クローディアは死んだ。もう終わったことなの。我が名はソーセレラ・ヴァン・クリスタル。これがオフィシャルで不変な名前よ」とか言い出す。ひどい。
 で、知人のアーティストとコウモリの住む洞窟で乱痴気騒ぎを繰り広げたりしつつ、バンドでツアーをしつつ、主人公は姉から乳癌だったという告白と絶縁の申し出を受けるのだった。
 CTの奇矯なふるまいはすべて天然だけど、ソーセレラのほうはときたま我に返りそうなそぶりも見せる。しかし、彼女が生きていくにはCTと信仰が必要なのだ。オチがこれまたしょうもないバカエロで失笑ものだが、要するに生きていくには幻想や楽しみにすがることが欠かせない人たちもいるのだという話である。

  • Ant Colony

 ハイレベルな変態が出てくる話。そのころ地球空間がとてもせまくなって、人間は他の生き物を身体に寄生させてやらなくてはいけなくなっていた――。出だしの一文の設定がすべて。比較的無害なフジツボなんかを選ぶ人が多いが、女性が豊胸手術がわりに胸に収めた水槽の中で小魚なんかを飼うのも流行っている。ここから先はグロテスク注意。
 美しい主人公はアリを選び、身体中をアリの巣にする。やがて体内のアリ勢力はいちじるしく繁栄し、中から食われていく彼女は、意識もアリの巣全体と融合していく。ところが実は手術を担当した医師は一方的に主人公に惚れていて、自分の身体にもアリの巣を備える手術をほどこしていた。まだ彼の巣の中はからっぽ。アリと合体した彼女の身体から、彼女を食べたアリを自分の巣に導く。そして彼女のひとつになる。これが医師の計画だったのだ。
 なんというアイディアだろうか。江戸川乱歩海野十三が書くような、昔のほの暗い探偵小説を少し思わせる。

  • Knife Thrower

 祖母によって母は殺された。そして母によって父は殺された。家から逃げ出すところ、ナイフを投げつけられて絶命したのは。そして主人公の少女は、家を脅かすさまよえる母の霊を殺す。
 男が不在=アマゾネスを思わせるナイフ投げ師の女系家族の、家族殺しの連鎖を幻想的に書く。

  • Deliverywoman

 喪女スペースオペラである。宇宙を駆け回る運送屋の女は、極悪犯罪人でとてつもない懲役刑をくらって冷凍されている母を持っていた。罪人の娘であることもあって孤独に暮らす彼女の唯一の楽しみは、出会い系サイトで知り合った「ブレイディ」という男とチャットすること。いつかは彼と結ばれるのだと信じていた。
 運送屋はついにコツコツと貯めてきた金をつかって、母親の《棺》かつ独房を買いとる。どんな人だろうとお母さんじゃないかとブレイディにそそのかされ、彼女は母親を解凍する。復活した母親は娘の食料をねこそぎにしたり、プロレス技をかけたりとやりたい放題。しかもブレイディは実は母親の仲間であり愛人で、はなから復活のために主人公へ接近したのだった。哄笑し、あざ笑いながら母親は語り手を冷凍カプセルに閉じこめて出ていく。
 母娘の確執ものは定番であり、Knife ThrowerもBandleader's Girlfriendもその手の話だが、本作の「こんなのってないよ!」度はピカイチだ。なにもいいことがないまま、中年になってしまったロマンティックな主人公が恋に恋している様の痛々しさときたら。*1

  • Corpse Smoker

 焼き場ではたらくボーイフレンドを持つ少女が、死者の遺髪を焼く煙を吸うと、その生前の記憶が垣間見えるという逸話を聞く話。

  • Cat Owner

 男より愛猫を優先する女の話。2ページ半程度。

  • Teenager

 女子高生の妊娠と中絶。とくにファンタスティックではない。

  • Ice Melter

 (糖尿病なので)保険がいいからという理由でゲイのパーティのために氷の彫像を作っては、閉会後にそれを溶かす仕事についた女の話。仕事のやりがいのなさと、容姿に恵まれないこと=愛されないことへの不満。

  • Hellion

 死後、地獄へ行った女の地獄見聞録。鬼(悪魔)と付き合ったりなど。地獄の造形はなかなか楽しい。

  • Alcoholic

 泥酔して起きたら浮気されていた女の話。2ページ程度。

  • Gardener

 欲求不満な奥さんが、庭の小人の置物たちが夜な夜な繰り広げる痴態(幻覚?)をのぞきみて大興奮。ナッティングが書くこの種のアホな悲劇は、私に森奈津子を思い出させてやまない。

  • Dancing Rat

 華やかな役の最たるものが、ネズミの着ぐるみに入って踊る仕事程度のダンサーが主人公。いいことも目的もないけれど、絶望するほど最悪でもない人生。

  • She-man

 男として生まれてきた女性の話で、ファンタスティック要素はなし。
 性転換後、バーで会ったプロボウラーと元の性別を言わずにむつまじく暮らした彼女。しかし元恋人に金をゆすられても渡さなかったため、秘密をばらされる。けんもほろろに同棲していた家を追われ、保守派ギャングにリンチされて死ぬ。
 現実にありそうな悲劇の物語で、“Teenager”と共に本書の中では異色の存在だ。どちらの話でも、愚直で、恋人が好きでたまらない女が、愛情と愚かさゆえに転がり落ちていく。(でも“She-man”の主人公はラメをデコる内職に励んだり、小型犬を溺愛したりと女子力満点な行動をとり、そのアホっぽい行動と深刻な内容のギャップが読者に笑いの気配を感じさせるのだ。笑うような話ではないし、笑っちゃ悪いのに――という話はなにも本篇だけではなく、この著者の持ち味のひとつ)

  • Magician

 これもリアリズム小説。片手を事故で失ってからめっきり元気をなくした兄。妹は彼の癒しとして、鳥と鳥かごをもってくる。なにもかも手品であればいいのに。タオルで覆った鳥かごからパッとタオルをはずせば、かごの中に兄の腕があればいいのに――並んで座りながら妹は、とりかえしのつかない彼の喪失を思う。

Unclean Jobs for Women and Girls

Unclean Jobs for Women and Girls

 質にばらつきはあるものの、これからも動向に注目しておきたい作家。リディア・ミレットやベン・マーカスが裏表紙の票を担当している。

 2012/5/7追記:“Ant Colony”と“Corpse Smoker”が『群像』2012 6月号に岸本佐知子さんのご翻訳で掲載されています。

群像 2012年 06月号 [雑誌]

群像 2012年 06月号 [雑誌]

*1:山姥のような「復活した母親」の暴走ぶりは、漫☆画太郎板垣恵介の絵で脳内再生されるレベル。