2010-01-01から1年間の記事一覧

The Black Minutes (2010) by Martin Solares

いよいよ内容の紹介に移ろう。 巻頭には、親切なことに登場人物一覧表がついている。ただし人数は50を軽く超える。おまけに作中ではひとりのキャラクターが名前・あだ名・名字のいずれかで呼称されるため、しばらく読むのを中断していると、その組み合わせを…

復活宣言

お前のブログは冬季限定ラミーチョコレートかなんかか、というお叱りを受けそうだ。じつに半年にわたってここを放置していた。どこかのどなたかに「更新停止」というブックマークを貼られてすらいた。 最近は仕事が忙しく、思うように小説も読めないが、これ…

メキシコから来た異色クライム・フィクション - The Black Minutes (2010) by Martin Solares(1)

舞台はメキシコの中規模都市である。ジャーナリスト殺人事件から幕を開ける、息もつかせぬ、驚嘆すべき処女長篇だ。主人公の捜査官、通称エル・マセトンは街が抱える暗い秘密へ急速に引きずりこまれていく。秘密、それは過去の惨劇。未解決に終わった連続少…

タイポグラフィー+ファンタジイ- Light Boxes (2009) by Shane Jones

“Light Boxes”(Penguin Books, 2010*1) by Shane Jones シェーン・ジョーンズは1980年生まれのアメリカ人。以前紹介したBlake Butlerと関わりがある作家で、巻末の謝辞にもバトラーの名前を挙げている。もともと小出版社で600部刷っただけの処女長篇が、ス…

露文インタビュー集“Contemporary Russian Fiction: A Short List”(2008)

フィンランドを拠点に活動するスウェーデン語翻訳者・ジャーナリスト・北欧のロシア文学出版人である、Kristina Rotkirchが現代ロシア文学の大御所たちにインタビューしたのを英語でまとめた本。ストックホルム大学などから後援を受けている。 登場するのは…

とぼけた笑いと苦さ-Psychological Methods To Sell Should Be Destroyed (2008) by Robert Freeman Wexler

“Psychological Methods To Sell Should Be Destroyed” (Spilt milk press, 2008) by Robert Freeman Wexler とぼけた味わいの幻想文学集。本書はチャップブック――てのひら大のパンフレットのような同人誌だ。 著者ロバート・フリーマン・ウェクスラーの小説…

ニュー・ウェーブ暗黒メルヘン・スペースオペラ-Open Your Eyes (2009) by Paul Jessup

“Open Your Eyes” (Apex Publications) by Paul Jessup ポール・ジェサップはあまり自身の情報を明かしていない。Facebookのプロフィールによればオハイオ出身、ペンシルヴァニア在住。おそらくは30代後半から40代前半くらい。好きな映画は『レザボア・ドッ…

追記(2010/12)

『新潮』12月号で、都甲幸治氏が連載「生き延びるためのアメリカ文学」で「夢の本、夢の都市――ミハル・アイヴァス『もう一つの街』」と題して取り上げていた。(びっくりした。まさか米文学コーナーで本書の評を見ることになるとは) 3段×2ページのうち、…

追記(2013/2/11)

もうひとつの街作者: ミハル・アイヴァス,阿部賢一出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2013/02/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (25件) を見る 河出書房新社から『もうひとつの街』として、まもなく丸々一冊邦訳が出るようだ。めでたや!

幻想特盛チェコ文学-The Other City (2009) by Michal Ajvaz

“The Other City” (Dalkey Archive Press, 2009) by Michal Ajvaz ウィリアム・L・クロフォード賞にノミネートされた、チェコの幻想小説の英訳である。ごく短い22の章から成る長篇だ。 著者Ajvazは1949年、チェコのプラハ生まれ。チェコ語・チェコ文学を専…

“Last Days”余談

序文として解説を書いているのはピーター・ストラウブ。自身の小説創作講座の生徒に、好きな小説家を答えさせた時にジョージ・ソーンダーズ*1やケン・カルファス*2に混じってこの作家の名前が出てきたのが、イーヴンソン作品との出会いであるらしい。解説は…

圧倒的不条理と暴力-Last Days (2009) by Brian Evenson

Last Days (Underland Press, 2009) by Brian Evenson ☆シャーリイ・ジャクスン賞長篇部門ノミネート、米国図書館協会レファレンス・利用者サービス部会の選ぶ2009年ベスト・ホラー ブライアン・イーヴンソンは1966年生まれの作家。いわゆる文学とジャンル・…

“Scorch Atlas”余談

一応Atlas(地図)の話で始まり、Atlas(地球)の話で終えて統一をとっている。掲載媒体は見事にバラバラ、どれもマイナーだ。変に実験小説に傾倒せず、幻想性の強いものを書き続けてくれればいいと思う。ささやかなユーモア感覚も失って欲しくない。本書の…

暗黒スリップストリーム-Scorch Atlas(2009) by Blake Butler

“Scorch Atlas” (Featherproof Books, 2009) by Blake Butler 死と飢餓、腐敗と汚穢、そして黙示録的災害に満ちた短篇集。ほぼ全てが家族の物語である。作者が意図して書いたのかは不明だが、同じ単語やプロットが何度も出てくる。死にゆく世界を舞台に、執…

ユダヤ教徒が食べても問題ない幻獣を仕分けた辞典-The Kosher Guide To Imaginary Animals (2010) by Ann & Jeff Vandermeer

“The Kosher Guide To Imaginary Animals”(Tachyon Publications, 2010)by Ann&Jeff Vandermeer 米国のファンタジー界を牽引するエディター、アン&ジェフ・ヴァンダーミーア夫妻。彼らが編集するアンソロジーは「ニュー・ウィアード」「スチームパンク」か…