The Universe in Miniature in Miniature (2010) by Patrick Somerville

The Universe in Miniature in Miniature by Patrick Somerville (2010, Featherproof Books)

 新鋭作家の集うfeatherproof Booksより刊行された短篇集。限定版はモビールになる表紙つき!

(from http://www.featherproof.com/Mambo/index.php?option=com_content&task=view&id=273&Itemid=41

 ネタバレあり。全作レビューではない。おすすめは☆つき。

  • The Universe in Miniature in Miniature

 表題作。SSTD(School of Surreal Thought and Design)で出会った3人の学生たち。先生もいなければ宿題もなく、ただひたすら自分の課題を研究させねばならない学校で、そもそも課題もまったくの自由だという。ルーシーは「甚大なるトラウマとそれに伴う家庭崩壊」をテーマにし、ライアンという青年をストーキングしている。ときにはバンで張りこみ、彼の家には18個の隠しカメラを設置して。聡明な好青年だったライアンは、コンクリートで頭を打ってから自分で着替えることもできなくなっていた。ルーシーもローズも、ライアンにかつてあこがれていたのだが。語り手であるローズのほうは、表題のような模型(モデル)『「太陽系天体模型」の模型を作る男の子やそれを手伝う父親の模型』を課題にしていた。
 ある日、学校から突然、手紙を初めてうけとり、指導教官に会いにいくよう指示を受けたローズはミシガン湖におもむく。パン屋で合言葉を伝えると、ビスケットでできた壁が開き、隠しエレベーターが起動し、湖の底にある《謎の硝子宮殿》への道が開かれた。
 指導教官に会いに行く際のドリーミーなところは絵になりそうだが、どうも全体的にパンチにかける。オチのしまり方もいまいちだ。学生たちの課題ももっと奔放もしくは無意味なものでもよかったような気がする。

  • No Sun

 自転の停まった世界でずっと日の射さない側に暮らす主人公。緩慢な世界の終わり。
 最後に、上空で凍りつき、ミサイルのように小屋に落ちてきた鳥が息を吹き返すところでかすかな希望が示される。

  • Vaara in the Woods 

 モンスターもの。「ぼくの祖父であるJames Somervilleは……」という語りがあるので、語り手はSomerville自身らしい。ごく短いが、B級POVムービーのような暴力性と、怪奇小説じみた不穏でぐらついた結末が好み。

  • Hair University ☆

 38歳の主人公は故郷で独身生活を送っている。あるとき、友達のフィルが「かみのけ大学」で危険な実験の被験者になりたいと言い出す。認可されておらず、カリブ海の孤島にひっそり建っているという「かみのけ大学」――しかしそれは、40を目前にしてほとんど頭髪がなくなってしまったフィルの最後の希望なのだ。メキシコ料理屋で主人公は参加を反対し続けるが。(以下、拙訳で抜粋)

「おまえ、もしそこでうっかり失敗しちまったらどうするんだよ?」
 彼はぐるりと目を回してみせた。
「それについては話したくないな」
「いや、ちゃんと考えとくべきだろ?」
「でもな」フィルは続けた。「だいたい実験の失敗は最大のリスクじゃないんだよ。お前には《かみのけモンスター》のことだって告げてなかったが――」
「そんなの知りたかなかったよ」
 いったい《かみのけモンスター》とはなんなのか、と俺は考えた。

(略)

「待てよ」
 俺は口火をきった。フィルの全身が電球のような燐光を放ち、ついで灰化するのを想像しながら。
「危なすぎるだろ?」
 あるいはどこかの迷宮で、ミノタウロスのように待ちかまえていた《かみのけモンスター》が出現するかもしれない。でも俺は疲れてきていたし、説得できそうになかった。あと、髪を取り戻した彼の姿はどんな感じかな、とか考えだしてしまった。結構いけてるんじゃないか。

 この後、語り手が所持していたセクシー・スペース・レディーの絵がフィルに見つかったり(挿し絵入りだ!)、フィルが金をせびってきたり、フィルのかみのけ大学への旅立ちが家族の葬式と重なり、彼は葬式をあきらめて大学へ発つ結末で終わる。
 掛け合いがほほえましく、コント化にいいかもしれない。話の途中から髪大(H.U.)と略されるようにさえなる、架空の機関・かみのけ大学が、駄目な男の友情小説であるこの一篇に、哀しい滑稽さと大きな夢を加えている。まったくもって他愛ないが、嫌いになれない話だ。

 ほかに、人気の生物学教師にアタックを試みる女子高生“The Wildlife Biologist”、他の知的生命体を見つけに宇宙を探索中の宇宙人が実際に発見し、いざコンタクトを始めようというときにうっかり誤って宇宙船のボタンを押し、相手の惑星を破壊する(21世紀にいくらなんでもこれはないのではないか!)という“Confused Alien”などの9篇を収録。技巧もアイディアももう一工夫ほしい。つねにゆるくて凄みはまったくないので、奇想・おどろきを求める読者には不向きである。また地球の破滅・異星人・モンスターなどの王道SF・ホラー要素は(意図的だろうが)あまりにベタであるため、ふだんから最近のSF小説・映画などに接している人には物足りないだろう。セクシー・スペース・レディー図パルプ雑誌黄金期をイメージした画風だった。

The Universe in Miniature in Miniature

The Universe in Miniature in Miniature

 もうすぐ新刊長篇が出る。
This Bright River

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