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チャールズ・ストロス “Rougue Farm”

 バイオエンジニアリングが大きく進歩した未来。ジョーとマディの夫婦が暮らす牧場の近くに“ファーム”がやってきた。戦車くらいのサイズで皮膚の質感は黒皮のよう、3本の眼柄と9本の足があり、イーストとガソリンのにおいを放つ。そんなファームの正体は、半ダースくらいの人間の集合体だ。独自の思想信条の下に生きている。ジョーからしてみれば、まったく理解できない存在だ。
 夫婦はファームをおどして所有地から追い出したものの、それは所有地のわずか先に根を下ろし、自らを宇宙へ打ち上げるための準備を始めてしまった。打ち上げが成功したあかつきには、周辺一帯は焼け野原になる。はたしてジョーたちはぶじファームを駆除できるのか?
 ストロスの作風のサンプルにはうってつけの短編だ――あふれんばかりのガジェット、変な生き物、ときにブラックなユーモア、いずれも充実している。ちょっとしたトラブルに見舞われ、それを解決する一本道な物語が、ストロスの手にかかればやたら面白い。
 秘訣はやはり、アイディアの濃さだろう。ジョーたちの農場では蜘蛛牛とやらを飼育しているし、知性化された飼い犬はマリファナをやっているし、妻のマディはかつてメソポタミア地方での平和維持活動に従事していた元兵士で、いまだに心の傷が癒えていない。
 肉体や意識に対するかけがえのないものという倫理観が、技術の進歩であっさり吹き飛んでいる未来像から最後の一文に至るまで、実にストロスらしいユーモアが楽しめる。