パオロ・バチガルピ “The Gambler”

 ラオスで起こった政変後、少年オンは両親に逃がされて母国を後にした。情報が統制され、故郷は今も内部の情報がほとんど観測できないブラックホールと化している。
 成長したオンは、米国のニュース会社の記者になった。しかし、ページビュー数や世間の反応が会社の株価や従業員評価へ即刻反映されるこの時代、彼が執筆する環境問題や政治の記事は人気がなく、上司からは解雇のおどしまでかけられている。
 そんなときオンは花形記者マーティから、国際的な人気を誇るラオス出身の歌姫クラープの取材というチャンスを与えられるが……。
 2009年にヒューゴー、ネビュラ両賞の候補作となった本編は、至近未来SFだ。発表当時より2017年の今のほうが、より差し迫った問題として情報や表現の自由、発信者の良心といったテーマを受け取れる。構成がとても巧みな佳作だが、それでも個人的には「第六ポンプ」(傑作!)のほうが更にお勧め。「第六ポンプ」で描かれるのも絶望的な社会ではあるが、なんといってもユーモアのさじ加減が優れている。